災害時に使用する調理器具や食器として求められるのは、壊れにくい事と、軽量である事、収納が容易であることなどが挙げられるだろう。
食器だけで言えば、プラスチックやシリコン製などの容器は壊れにくく軽量で、コンパクトに収納できるものもあるので、配給を受け取るだけ、炊き出しを受け取るだけであればそれでも良いだろうし、直火を使用しない(させない)子供向けの食器としては適している部分もある。カラフルなものもあり、気分を落ち着かせる効果も見込まれる。
一方で、金属製の食器(調理器具)は、直火にかけられるほか、食料や火器などを収納したり、異なる大きさの鍋を重ねてコンパクトに収納したり、衝撃などにも強く壊れにくいなど登山やキャンプなどの行程でも活躍する。
金属製といっても、ステンレスやアルミニウム、チタンなど様々な種類がある。その金属によって特性や適した使い方があるので、目的に合わせた素材の調理器具を揃えたい。
ステンレス | アルミニウム | チタニウム | |
熱伝導率 | △ | ◎ | ○ |
硬度 | ○ | △ | ◎ |
重量 | △ | ○ | ◎ |
使いやすさ | ○ | ◎ | ○ |
価格 | ◎ | ○ | △ |
素材の他に、表面加工(テフロンなど焦げ付き防止加工)やハンドルの材質や形状(深いか、浅いか、角型か丸型かなど)の組み合わせで様々な種類があるが、どのような用途で使用するかによって選択肢も異なってくる。
ステンレス製は耐久性もあり手入れも容易なのでたき火などに直接くべても大丈夫であり、焦げ付きなども金属たわしなどでこすって落としてもよく、家庭用の調理器具に近い感覚で使用する事ができる。反面、重量があり熱伝導率もよくないので、燃料を多く消費したり、焦げ付きやすいなど家庭での調理のつもりで取り扱うと思いがけないデメリットに直面する場合もある。
アルミニウムは、軽量で熱伝導率もよく取り扱いが容易な材質といえる。多くのアウトドア用クッカーがアルミニウムを採用しているのもこれら理由によるものだ。米を炊きたいという場合にはアルミ製一択と言っても良いだろう。反面素材として比較的柔らかいので落としたりすると凹みやすい他、金属たわしなどでこすると傷つきやすい。表面加工が施されたものは特に手入れや取り扱いに注意が必要だ。
チタン製は最近種類も増えてきたクッカーで、アルミのラインナップをチタンにして出しているアウトドアメーカーも多い。何と言っても軽量で丈夫なので、お湯を沸かす、ミルクやスープを温める、など比較的簡素な調理がメインであればアルミ製にも劣らないだろう。熱伝導率は悪いが軽量化の為に薄く作ってあるので火力調整が難しい。
そのため米を炊く、カレーなどの具材が多い煮物は焦げ付きやすく火力調整に熟練が必要だ。また、チタンは焦げなどしつこい汚れは焼いてしまえる。その他、砂などでこすって汚れを落とし、軽く水で流した後、焼いて消毒などもやりやすい。こういったハードな使い方をするのであれば、コーティングしていないものが良いだろう。
次に形状だが、深型(ポット形状)、鍋型(広口)、食器タイプ(お椀、皿)などがある。通常の調理をしたい場合、広口形状な鍋型が使いやすい。お湯を沸かすなどがメインの場合、コンパクトさを追求したい場合などはポット形状など深いものでも良いだろう。多くの場合、フタがフライパンや皿として使用できるようになっている。
アウトドア用のクッカーは、ガスボンベなどを入れておくなど空間効率を高める工夫がなされている。それがクッカーの形状や容積を決めている一面もあるので、あわせて使用する器具や火器なども考えて選ぶと良いだろう。
形状もまた選ぶ際に重要なポイントだ。調理のしやすさや手入れのしやすさで言えば丸型がよい。火の廻りもむらなく行き渡る。角型は液体を注ぐ場合に注ぎやすいとか、パッキングした時に収まりが良い(バッグの中でデッドスペースが生じにくい)というメリットもある。
容量(容積)もまた選択のポイントで、家族2〜4人分の調理を行うのか、1〜2人分の調理を行うのかで異なってくる。ファミリー用途だと、1,000㎖以上のものを複数(例えば1,500㎖と2,000㎖の大小)とフライパンなどのセットが最低限欲しいが、個人用であれば600㎖と1,000㎖の大小、飲料用のカップ(400㎖)があれば良いなど選ぶものも異なってくる。
食器(クッカー)を選ぶ場合には、想定される災害規模や被害想定、シナリオを元に必要と思われるメニューや備蓄状況にあわせた器具を選ぶ事になるだろう。地震でも水害でも多くの場合自宅から避難しなければならない場合、持ち出せるのはアルファ米やフリーズドライ食品など軽量コンパクトなものがメインという場合には、お湯が沸かせればよいのでなるべく軽量で燃料が調達しやすいものを選ぶという選択肢がある一方で、ガスや水道などのインフラが止まっても自宅が無事で家にある備蓄をやりくりして過ごせる可能性が高いという場合には調理器具は普段使用しているものが使えるので、ご飯だけ鍋で炊けば良いというシナリオもあるだろう。
そして、避難所においては個人用や少人数用の鍋類はあまり役に立たない。大量の調理には大きな鍋などが必要になる。大多数が乾パンをかじりながらペットボトルの水を飲んでる状況で、一人だけお湯を沸かしてカップ麺を食べるなどという事はなかなかできないものだ。