装着するだけで自室がコンサートホールになる臨場感
ゼンハイザーエレクトロニクスの「HD650」は、音質、装着感、質感など全てにおいて同社のフラッグシップとなるオープンエア型ダイナミックヘッドホンである。
ヘッドホンの筐体は重厚でしっかりした作りだが、それほど重くはなく装着感も悪くない。柔らかいベロア調のイヤーパッドは心地よいフィット感を出しており、ホールド感がありながらも強く締め付けない程よい弾性は、長時間使用してもほとんど疲れない。両耳とヘッドバンドで保持する際のバランスが良いのだろう。それぞれに負荷分散されて実際の重さよりも軽いつけ心地を実現している。
最高機種だけあり、収納されているパッケージも厳かな感じだ。
長めのケーブルはフルサイズのステレオジャックが標準で、iPod用にはミニピン変換ケーブルを使用する。 筐体は、ガンメタ調の塗装が施されており、高級感を演出している。
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耳にフィットする柔らかいイヤーパッド。
ベロア調の生地とクッション素材により快適なつけ心地を提供している。 ヘッドホンそのもののホールド感も良好で、実際よりも軽く感じる装着感。
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全体的にやや低音よりな感じがするが、バランスはよく全域で気持ちよく伸びてゆく感じだ。音場感も解像度も良く、一般的な楽曲であればジャンルを選ばずに能力を発揮してくれるだろう。実際に、J-POPやロック、クラシック、Jazzなど多岐にわたって聴いてみたが、ジャンルによって極端に相性が悪いという印象は受けなかった。ただ、ポータブル系のヘッドホン、イヤホンに慣れている人によっては、高音域の伸びが物足りないとか、全体的にシャープでない感じがするかもしれないが、本来の音の感じとしては本機の方こそが原音に忠実なのだと思う。
メッシュカバーの下にドライバユニットが見える
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装着イメージ
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おおむね満足な本製品だが、あえて難点を挙げるとすれば、遮音性と音漏れに関しては、ほとんど期待できないと言う所だろうか。しかしながら、本機を電車の中などポータブル、モバイルで使用するのは想定外の使い方であり、正直オススメしない。
自宅などでお気に入りのオーディオセットに繋いでゆったりと楽しむのが本来の使い方だろう。
このような高級ヘッドホンは、iPodには不向きという意見もあるが、その大部分はMP3などの圧縮された音源のエンコード品質によるものではないかと思う。今回のテストの大部分は、iPodの幾つかのモデルを使用して行っているが、非常に満足のいくものだった。その際、最もパフォーマンスを出した機器、エンコードなどの組み合わせは「ソリッドメモリ型(iPod nano, iPod touch, iPhone)、非圧縮音源(AIFF, WAV)or 可逆圧縮音源(Apple Lossless)」だった。ボリューム設定は、70%程度~MAXと高めに設定して置く必要がある。また、音量を絞った場合、急に物足りない印象となる場合が多かった。iPodなどのポータブルオーディオ機器を接続して聴く場合には、ヘッドホンアンプなどを介するとより満足感の高い結果を得られるだろう。
実売でも50,000円を超える価格ながら、音質やデザイン的にも優れており満足感は高い。特に、音楽を高品質なオーディオセットで楽しみたいが、住宅環境が許さないなどの音質にこだわるヘビーユーザの自宅での鑑賞用として威力を発揮するヘッドホンだろう。今回は、レビューと言う事もあり、エージングに十分時間をかけられない状態だったが、もっといろいろな曲を聴いてみたいと欲が出てくるほどのヘッドホンだった。
撮影協力:D-Park